【横浜カルバリーチャペル】 天の窓
 
2017年3月26日

武井博 名誉牧師 著

 アメリカの新しい大統領トランプ氏が、第16代大統領のエイブラハム・リンカーンが使った聖書に手を置いて宣誓を行ったというニュースは、わが国にも大きく伝えられました。それは、キリスト教がリンカーン大統領の政治思想の根幹をなしているということを前提としたセレモニーであったということです。
では、果たしてリンカーンがどんな風にキリスト教と接し、それを彼の政治思想の中に吸収していったのか、それはあまりはっきりしていません。ただ、彼は「自伝」の中で、父方の先祖がペンシルバニア州の出身であり「家の系統はクエーカーであった」とはっきり記しています。
 クエーカーと言えばキリスト教のユニークな一派ですが、日本にも、その信者で有名な人がいます。先ず、5000円札の新渡戸稲造博士、それから、文部大臣などを歴任した前田多門氏。この前田氏は、あの神谷美恵子さんのお父さんにあたります。その神谷さんは、ハンセン病患者を収容する「長島愛生園」で長く精神科のドクターを務め、更に美智子妃殿下の相談役も務められたクエーカー教徒です。それから、天皇陛下(当時は皇太子)の家庭教師を務めたバイニング夫人も、クエーカー教徒でした。
 クエーカー教徒は、特に平和を重んじ、この前の戦争中にも、徴兵拒否などの運動も展開しました。また、戦後、衣料や食料などの不足に悩む我が国に、率先してそれらの物資を贈ってくれたのも、このクエーカー派の人たちでした。
 有名なアンドレ・モロワという人の「アメリカ史」によれば、ペンシルバニア州は、ウィリアム・ペンという人が、1681年にイギリス国王から特別な許可を得て、「クエーカー教徒を集め、自治政府を組織し、暴力を用いずに、愛をもって治めるという『神聖な実験』を試みようとした」州だということです。そしてペンは、その州都を聖書にある「フィラデルフィア」(“兄弟愛”の市)と名づけ、更にまた「シルベニア」(ラテン語で“森”)という州名の前に、ウィリアム・ぺンのお父さんの名前である「ペン」を加えて、「ペンシルバニア州」としました。そして「この実験は成功に終わった」とモロアは記しています。
 どうやら、リンカーンのお父さん、お母さんは、そのクエーカー派の平和主義や友愛精神を重んじる信仰者であったと考えることが出来ると思います。つまり、そこから、リンカーンの奴隷解放思想や、神のもとでの民主主義思想が発想されていったのだと思います。
 そのリンカーンは、南北戦争の勝利を見ることなく、暗殺されてしまいました。しかし、彼の信仰と、民主主義の思想は、今でも世界の歴史に鮮明に刻まれているのです。 ハレルヤ!