【横浜カルバリーチャペル】 天の窓
     
2018年5月6日

「 その先に何が? 」

以前、浮世絵師・葛飾北斎について書いた事があるが元祖浮世絵師と呼ばれる菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)の作品が、このゴールデンウィーク、上野の東京国立博物館に特別展示されている。菱川師宣は、その代表作「見返り美人画」で知られる江戸時代初期の浮世絵師である。昭和23年に記念切手となると、コレクターが憧れるプレミア切手として高価な存在となり、平成3年には復活版として再び登場したのである。

途中で、ふと足を止めて振り返った印象的な姿は「あずまおもかげ」と呼ばれ、当時、何もない背景に女性が一人描かれるのは珍しく、現代ファッションモデル・グラビア版の源とさえ言われる。よく計算され、考えられたこの美しいポーズは天才的と海外でも評価が高い。着物や髪型は当時の流行となり、この帯の結び方も「吉弥(きちや)結び」と呼ばれ、当時の女性はみな真似たというから現代と同じで、女性は昔も今も変わらないのである(失言)。それは、服装や髪型だけではなく、この見返りポーズも、時代を超えて、最近でも「35億!」となって大流行しているのである。

よく話題になるのは、この女性の視線の先に何があるのか?であるが解説者によると、正解は「わからない」であって、振り返った彼女/視線の先にあるものは、これを観る人の心の中にある記憶や想像や思いなのであって、それこそが、この作品を完成させるのだと言う。

さて、聖書にも振り返った女性がある。先月学んだロトの妻。この世の未練に後ろ髪惹かれて神の言葉に反し、ソドムとゴモラを振り返ってしまい、塩の柱になったのは余りに有名である。もう一人、キリストが逮捕されたあの晩「一味か?」と問われた弟子ペテロは恐ろしさの余り「私は知らない!」と誓い呪い始めた。その時「イエスは振り返ってペテロを見つめられた」とある。その主の目は、怒りや失望や悲しみの目ではなく、弱いペテロを尚も愛して赦し「だから、私はあなたの為に十字架に架かる」という目であった。主に振り向かれたペテロは、大声で走りながら男泣きに泣いた。主の十字架なる聖餐を前にして、今朝、主が振り向かれたその先には誰がいるのであろうか。